ひとともり奈良本店

ひとともり奈良本店

私達の仕事場です。

建築デザインのみならず、人の関わりや食生活などの健康を含めた「生活のデザイン」の提供を目指している「ひとともり」は、都市と原始林と人々の生活の接点である歴史都市奈良にある築140年の奈良町家を「設計事務所」「宿」「カフェ」へと改修/修復し、ここを私達の仕事場としています。

既存建物は中央の坪庭を介し築140年の母屋とサイディング貼の離れに分かれています。母屋は住宅と和菓子の販売所として、離れは和菓子作りの厨房/事務所として使われていました。

 


左は世界遺産でもある若草山や春日山原生林、右に人々の生活する住宅地がある。約1200年ほど伐採が禁止された原始林が近接している都市は稀。貴重な地域に敷地は位置する。

右の古い瓦が母屋。左の赤い屋根が離れ。中央の山茶花の木の周りを波板のバラックが囲んでいる。既存建物の構成をそのまま使っている。外装もほぼ変更はしていない。


山茶花のある一坪の小宇宙「坪庭」。たったこれだけの開口部なのに絶大なる効果。

道路側のファサード。全面道路から床面を上げ道路面からの水の侵入に留意している。暖簾は工事用のメッシュシートとステンレスメッシュを合わせ光の反射を利用し「一灯」を可視化している。暖簾のデザイン/製作はfabricscape。

 

既存の構成や奈良町家の雰囲気を維持しながら現代的なアプローチで改修した点を以下に記します。

 

「坪庭」

奥深い町家の中央に光と風をもたらす坪庭はかつて眺める庭として石の花壇が組まれていました。今回の改修で水はけを考慮し土間を設え人が近づける庭へとリデザインしました。花壇は崩され森の風景として作庭されました。鳥が自然に運んできたかの如く植えられたムラサキシキブの若葉が朝の陽光を受け美しい風景を作っています。坪庭周辺は簡易な屋根がバラック的に架けられていました。邪魔な柱や梁は架け替え空間を整理。このバラック的な気楽さが気に入りテンポラリーな表現(ラワンベニヤ貼)としました。気さくでフランクでありながらもストイックでありたい私達らしい空間で、歴史的な建築と対比させています。

座敷と坪庭。縁側は既存床にペンキを塗装しただけ。壁はラワンベニヤを3等分しランダムに貼り合わせている。座敷の梁や敷居は構造補強のため新しい材に入れ替え渋墨を施し、既存建物に馴染ませている。作庭は奈良のplanta。

水はけの為に設けた土間部分。屋外での打合やくつろぎスペースになる。バラック屋根の梁と柱の位置を整理した。柱は直行する梁の接合部にはならないので45度振り自由な柱として表現している。正面は左から事務所応接室、事務所シャワールーム、事務所キッチンの開口部。

柱位置が調整されたバラック切妻屋根の架構。アイコニックなカタチが残った。

美しく濃縮された西陽が差し込む坪庭

雨の風情。奈良現地で取採れる生駒石だけを選び残した。

事務所での打合風景。手前は常緑のヒサカキ。

 

 

「通り庭」

奈良町家の特徴でもある通り庭。ここは台所にもなっていました。台所のタイル張りのカウンターを解体し花を活ける水盤に変更しました。屋根に天窓が3箇所。真っ暗なこの通り庭に印象的な光が差し込んでいました。今回の改修でこの場所は自然光の移ろいを感じる空間として既存の白い壁を黒の土壁に改修し、自然光があまり拡散しないこの建物の象徴的な空間へと改修しました。所でひとともりには2つの意味「人と森」「一灯」という意味があります。宿の名前は「宿一灯」としています。宿のエントランスホールともなるこの通り庭には宿名の通り照明を一灯だけ灯しました。坪庭にあった蹲はここに移設され生けられた花が一つの灯に照らされ、ゲストを迎えています。


トップライトからの光を受ける通り庭。壁上部は当時のオリジナルのままの土壁。下部は白漆喰の汚れた壁を今回の改修で黒の土壁とした。自然光がテーマのこの空間では色ではなくテクスチャだけで構成し、自然光の拡散を避けた。

通り庭から座敷を望む。左のドアが宿一灯の入口


一灯(ひとともり)。照明デザインは奈良のNEW LIGHT POTTERY 


エントランス正面に移設した蹲。切り花がゲストを迎える 

台所を改造した花器

 

 

カフェ「生姜足湯休憩所」

かつては駐車場と仮店舗だった場所をカフェに改修しました。坪庭に抜ける開口部を付け足し奥座敷と連結して使用できるようにすると共に坪庭への視線の抜けを確保し全面道路からも中庭の存在が感じられるようにしました。既存の箱階段も活かした歴史を継承したカフェです。(井戸の水を沸かし足湯として提供しています)

開口部の高さにこだわり5尺7寸(1728ミリ)や5尺2寸(1600ミリ)など日本人がかつて持っていた寸法体系を採用しています。


5尺7寸高さの開口部。上部看板は既存のままで会社名を手書きしている。


左奥に中庭に通じる開口部を設けた。天井はオリジナルの松材。


正面の店舗の風情を借景としている。


換気、排水、給水、電気用にふかした壁がニッチとなり、奥深い開口部を作り出す。壁はUトップ左官仕上げ。安価でありながら手仕事の跡の残る仕上。


奈良本店共通のエントランス。壁、天井は既存2階の天井材を再利用している。構成は現代的だが素材は古い。既存建物と対比しながら馴染んでいる。


再利用している箱階段のテクスチャー。長い時間をかけた素材感には勝るものはない。


カフェと座敷の間の前室。壁はUトップ仕上げに柿渋と渋墨を配合し雑巾にて拭き仕上げた。


柿渋と渋墨の壁。坪庭からの自然光をジワリと受け心に届ける。


構造補強を施した座敷。両サイドの壁は添え梁と補強柱でふかしている。正面の敷居下にも梁を渡している。障子の桟は見付24ミリの通称吉村障子。


構造補強しふかした新壁と奥のオリジナルの壁の対比。床柱の大きさやテクスチャーなどオリジナルに違和感は感じるが、そこも面白がっている。床の間を3/4塞ぎ補強柱にて補強し円弧を描いた。

 

 

宿「宿一灯」

かつての住宅部分を一組限定の宿に改修しました。奈良町家の特徴「厨子二階」で大変低い天井でしたが小屋組の美しさを活かし天井を剥がしました。外国の方も過ごしやすいよう床を一段上げた床そのもをベッドと見立てています。窓際は腰高を確保し座って外が眺められるようにしています。急勾配の箱階段に登り易いよう真鍮手摺を設けました。この真鍮手摺はハンガーパイプと繋がっていてお互いを支え合った構造です。畳に座った視線からの見え方を意識して低く横長のプロポーションになるようデザインしています。真鍮の素地仕上げが経年と共に鈍く光り空間にアクセントを与えています。

 


障子越しの柔らかな光。快適な睡眠を誘う。


障子を開けると見事な山茶花が。秋には真っ赤に染まる。

腰掛けるのに最適な高さのヘッドボード


鍮手摺とハンガーパイプ。照明器具とともに真鍮にはクリア塗装を施していない。鈍い光が心に届く。

既存茶室の水屋を改修し、洗面/トイレ/シャワー室に。


一輪挿しでゲストを迎える。

宿フロント

 

 

設計事務所「ひとともり一級建築士事務所」

かつての和菓子厨房はサイディング貼りの簡易な建物と坪庭との間のバラック的な増築部分を利用していました。このバラック増築部分を、坪庭と事務所を繋ぐインターフェイス空間として坪庭の見える各室(応接室、シャワールーム、キッチンへ)へと改修しました。サイディング貼の外壁もそのまま活かした簡素な作りではあるけれど高さの変化や明るさの変化のある抑揚に富んだ空間となっています。


既存梁より下の壁に断熱材を補強した。事務所から坪庭、座敷、カフェ、道路が見通せるよう開口部を設けている。


小上がりの応接室。坪庭の高さから床の高さを決定している。

既存バラックをそのまま表した天井。ニッチ壁も当時の土壁が露出している。

座敷から事務所を見る。サイディングの外壁がインテリアの壁になりトップライトの光を受けている。シャワー室の窓は全開放できる引戸。枠が飛び出している。

 

 

他の歴史ある都市同様、歴史的建築物は維持が難しく、解体されコインパーキング等に変わってしまう光景がしばしば見られます。私達は事務所家賃を宿泊施設と飲食店舗の利益で賄うスキームで運用しています。このような行為が歴史ある建物の延命に役立ち、観光資源の一助になる。そしてこの行為を他の建物にも拡げ歴史的価値のある建築物を未来へ継承出来れば、建築家としての社会的な役割を果たせると考え仕事を続けています。

ひとともりPVはこちら

美しい奈良へ。
是非お越し下さい。

 

設計:ひとともり
照明設計:NEW LIGHT POTTERY
作庭:planta
暖簾:fabricscape 

施工:羽根建築工房
家具/真鍮手摺:アンドエス
シャワー:Burg Design Banker

写真/映像:河田弘樹